こんにちわ、昔学校の部活動で精神修行といって地元のお寺へ行き、
座禅を長時間させられたことのあるりんりんです。
座禅も長時間すると足がとんでもなくしびれるんですよ。
しばらくはしびれが強すぎて歩けなくなりました(汗
この記事では牛車腎気丸を使ったときのしびれへの効果をご紹介したいと思います。
まずは適応です。どんな症状に使えるでしょうか?
<適応>添付文書を少し簡略化しました。
症状
疲れやすくて両手足に冷えがある。おしっこの量が少なく、回数が何回も行く人。
口の渇きがある人。
証は中等~虚証。特に体力の低下した寒がりの高齢者に向きます。
具体的な病名
下肢痛、腰痛、しびれ、老人のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ
構成生薬を紐解いてみます。
生薬名 | 読み | 組成量 | 薬能 |
---|---|---|---|
地黄 | ジオウ | 5.0 g | 補腎・滋陰 |
牛膝 | ゴシツ | 3.0 g | 補腎・活血 |
山茱萸 | サンシュユ | 3.0 g | 補腎・滋陰 |
山薬 | サンヤク | 3.0 g | 補腎・滋陰 |
車前子 | シャゼンシ | 3.0 g | 利水 |
沢瀉 | タクシャ | 3.0 g | 利水・駆瘀血 |
茯苓 | ブクリョウ | 3.0 g | 利水・駆瘀血 |
牡丹皮 | ボタンピ | 3.0 g | 利水・駆瘀血 |
桂皮 | ケイヒ | 1.0 g | 温め、発汗 |
附子末 | ブシマツ | 1.0 g | 温め |
味やにおいなどといった性状
味:わずかに甘くて酸味がある
におい:漢方特有のにおい
添加物:ステアリン酸Mg、乳糖、ショ糖脂肪酸エステル
甘みと酸っぱさがあるので、漢方の中では飲みやすい部類でしょう。
地黄の甘さと山茱萸の酸味が際立っています。
においは生薬特有のものです。漢方って感じがしますね。
添加物には乳糖が入っているので乳糖不耐症の方は注意です。お子様も注意が必要です。
生薬の薬能
キー生薬は5.0g入っている地黄をはじめとした牛膝・山茱萸・山薬の補腎4生薬です。
糖尿病などの末梢神経障害=しびれ
に使用する八味地黄丸に牛膝と車前子をプラスしたのが牛車腎気丸になります。
しっかり「牛」と「車」が名前に組み入れられていますね。
八味地黄丸は下記記事を参照です。
牛車腎気丸は補腎と利水・駆瘀血が重要な薬能になるのでその2つを見ていきましょう。
<補腎>
補腎の生薬は地黄をはじめ4つ構成されています。
腎臓は漢方でいうと精力を蓄える場所になります。生きるエネルギーを持つ臓器になるんですね。
加齢により腎臓のエネルギーが減ることを腎虚といいます。
この腎虚を補って腎機能を改善させることで腎虚によって引き起こされる症状を改善します。
腎虚によって起こる症状はおしっこのトラブルです。
腎臓はおしっこを作る場所なので腎機能が低下するとおしっこの出が悪くなったり、直接的な症状としては腰が痛くなったりします。(腎臓の位置は腰側に2つあります。)
<利水・駆瘀血>
牛車腎気丸のもう1つの作用は水と血を巡らす作用になります。
しびれの効果はこの薬能が関係していると考えられます。化学的な効果は後述。
滞った水と血をうまく循環させることでしびれやむくみを改善してくれます。
冒頭で座禅のし過ぎて足がしびれた話を書きました。これはある一部分の圧迫により血流が悪くなっていたものが急に再開されたことで大量の活性酸素が発生した結果、痛みやしびれが出るメカニズムがあります。
つまり血の循環を良くしてあげることでこれらのしびれも改善してくれると考えます。
抗がん剤を使ったしびれは上記とは全く一緒のメカニズムではないので注意。
実際どうやって使うの

強めの冷えがあり高齢者へ。八味地黄丸が効かない場合の2ndチョイスとしても。
頻尿や排尿困難やむくみ
むくみはおしっこの量が減ることで身体に水が溜まることから起こります。
牛車腎気丸を使うことでおしっこの量を正常化、前立腺肥大による排尿困難を改善させることで水をうまく出します。
診療ガイドラインでは前立腺肥大や過活動膀胱に対してC1グレードの推奨となっている(行っても良いけど、そこまで根拠はないです)
つまり西洋薬よりかは効き目に根拠はないけど使っても良いですよというレベル。
セルフメディケーションで最近おしっこの出しぶりがある場合はお試しするのも良いかと考えられます。
かすみ目(白内障)
加齢によって、目が見えにくくなることがあります。
単なる老眼とは違く、水晶体が濁り目の前が白くなってくる(かすみ目)ことを白内障といいます。
白内障は発症すると薬での完治は難しいのですが、手術であれば完治できます。
日帰りでもできる手術なので、漢方で先延ばしにするのであれば手術する方がおすすめです。
適応上はかすみ目に使用できますが、有効を示す根拠となる論文はありません。
しびれ、腰痛、足の痛み
ここでいうしびれは抗がん剤とは違う、老人性のものになります。
加齢による腎虚で水と血の循環がおちた結果末梢神経の障害が出るときに有効です。
また腰痛は筋肉痛ではなく腎臓由来のものとして考えます。
筋肉痛であれば葛根湯など筋肉の弛緩に関連した漢方がおすすめです。
抗がん剤によるしびれや痛み
神経細胞の障害がしびれの原因
抗がん剤によるしびれへの効果は果たしてあるのでしょうか?というのが本題でした。
しびれについては上記でもありますが、抗がん剤の場合は薬による副作用なのでしびれのメカニズムも少し変わります。
主にしびれを引き起こす作用のある抗がん剤はプラチナ系のシスプラチンやオキサリプラチン、タキサン系のパクリタキセルなどになります。
これらの抗がん剤は神経をつなぐ軸索(鎖みたいなもの)を攻撃することで軸索障害が起きます。
軸索障害によって神経の伝達が邪魔されてしびれの原因になるのが最も多い例です。
軸索以外にも神経伝達を行う場所である神経細胞体の直接的な障害や、髄鞘(神経伝導を加速させる装置)の障害によってもしびれは起こります。
また神経の伝達障害だけでなく、知覚神経も同じく障害を受けます。これにより触ったときの感覚がうまく伝わらない知覚過敏による痛みも生じます。
牛車腎気丸はこれらの神経細胞を治してくれるのでしょうか?
→いいえ直接的には治しているわけではない。
動物実験でわかっている作用機序は2つ
- NO産生促進による血流の改善
- κオピオイド受容体を介した鎮痛作用
1つは駆瘀血の効果が動物実験で証明されていますね。
血流をよくすることで軸索の修復や再生を活発化させることに繋がるんだと推測できます。
2つ目は痛み止めの効果。
κ受容体は痛みに関連した装置になります。商品名でレミッチ®やセダペイン®といった薬がここに作用します。
牛車腎気丸は抗がん剤由来のしびれに効果はない?
現時点では効果は否定的であると言えます。
というのも、当初牛車腎気丸が使い始められた時は小規模でしびれに効果を有する報告がポツポツ出ていたのですが、実際大規模の試験ではネガティブなデータが出てきてしまったからです。
400名近くの患者さんで5つの試験を解析しています。結果はしびれ防止には使えないとしています。
「Goshajinkigan for prevention of chemotherapy-induced peripheral neuropathy: a systematic review and meta-analysis」Kuriyama A,et al
目標症例である310名の半分の段階で牛車腎気丸のほうがしびれが多く試験が中止に。
「Preventive Effect of Goshajinkigan on Peripheral Neurotoxicity of FOLFOX Therapy (GENIUS Trial): A Placebo-Controlled, Double-Blind, Randomized Phase III Study」Oki E,et al
しびれを扱う多くの診療ガイドラインで牛車腎気丸は登場しますが、抗がん剤由来の場合の推奨度は低いと考えられます。
副作用
・間質性肺炎
・肝障害
・胃痛や食欲不振
・過敏症
・のぼせ、心悸亢進
八味地黄丸同様に、地黄が構成されているため胃腸障害には注意です。
特に高齢者は消化器能力も低下しているため、元々胃痛などがある人には使わない方が良いでしょう。
附子は強心作用があります。そのため附子が効きすぎると動悸やのぼせの症状が出るので注意。
まとめ

- 牛車腎気丸は高齢者の冷えが強い人へ。
- おしっこの悩みやしびれに効果を発揮する。
- 抗がん剤由来のしびれには効果が否定的な意見が出ている。
- 胃痛がある人は注意。
おしっこは自然の摂理なので必ず出ます。毎日あることが悩みになってしまうのはつらいです。
ですが、加齢とともに各臓器の機能は落ちてきてしまうのでそれは防ぎようがありません。
漢方で少しでも改善できれば御の字です。
今でこそ、急性期でも漢方を使いますが、慢性的な身体の不調をサポートしてくるのが本来の漢方でしょう。
皆様のセルフメディケーションのお役に立てれば幸いです。